個人と同じ感覚で買ってはいけない会社のスマホ 働き方改革を始める前に知っておきたい法人ならではの事情
現代の情シス担当者に求められることは非常に多い。セキュリティ管理や業務支援はもちろん、一昨年より叫ばれている「働き方改革」への対応など、仕事は多岐に渡る。そんな中、携帯電話の導入に際しては、コストだけで製品を選んだり、BYODの導入に走ったりと、意外とないがしろになっている面があるかもしれない。
しかし「個人が選ぶ」のとは違う。「法人ならでは」の選び方が明確にあるのだ。
数十台、数百台の規模で機種を導入する情シス担当者や総務部の視点で、企業がスマートフォンを選ぶうえで何に配慮すべきかをまとめてみよう。
最新=最良という誤解、安くても結局損する、そんな失敗を防ぐには?
安価なAndroidスマートフォンが数多く発売され、スマートフォン導入に対する障壁は下がってきている。MVNOによる通信料の低減もあり、従来の通信事業者(キャリア)との契約だけでなく、MVNO事業者が販売するSIMフリースマートフォンの導入も検討できるようになってきた。選択肢の幅は広がっているのだ。
ただ、安価で導入しやすいと喜んではいけない。個人向けスマートフォンと同じ感覚で会社用のスマートフォンを機種選定すると、のちのち後悔する恐れがあるのだ。それは個人とは異なる、法人ならではの利用方法があるためだ。
もちろん法人でも「個人と同じ携帯電話会社から、個人向けのスマートフォン」を買うことはできる。しかし「法人用途を満たす仕様を持ち、しっかりしたサポート体制も整っているスマートフォン」を探すとなるとなかなか大変だ。
個人/法人のニーズでいちばんの違いは、企業固有の事情に配慮して環境を用意する必要性がある点だ。パソコンなどでは、メーカーやSIerが導入する企業の声を聞き、それに準じた状態で製品を納品してくれるサービスがある。「キッティング」などと呼ばれているものだ。スマートフォンでもこれは同じ。必要なアプリを入れ、設定をあらかじめ適用した状態で従業員に配布することがある。逆に必要のない機能を制限したいときもある。業務利用では、コンプライアンスの関係でSNSなどの利用を限定したり、セキュリティを考えてカメラ機能を止めたりするのはその一例。情報漏洩を防ぐためにリムーバブルデバイスを利用停止したり、アプリの追加や削除をさせないようにしたりといったことも、よくある事例だ。
MDMなどを利用すれば、情シス担当者が1台1台設定していくことも可能だ。しかし、数台の導入ならまだしも、数十台の規模となればかなりの負担になる。こういった負担を排除するために、SIerなどに委託することもできるが、大企業でなければ難しい面もあるだろう。ごく一部の機種では、メーカー側でこうしたニーズに応えてくれる場合がある。このあたりは、画面に保護フィルムを貼ったり、各端末に管理番号を貼ったりといったレベルから、アプリの取捨選択や設定まで済ませ、納品されたら支給されたSIMを差して電源を利用するだけで済むようにするものまで多種様々だ。情シス担当者の負担が減ればほかの業務に集中できる。より効率よく仕事を回すうえでも、企業の要望に合わせてどこまで柔軟に対応してくれるか、どういった納品方法が選べるかは事前に押さえておきたい。
端末は管理のしやすさや堅牢性など、法人ならではの視点で選ぶ
製品の仕様も個人向けとは異なる視点で検討したい。スマートフォンを使って社内システムにアクセスさせるなど、より深く業務で利用するのであれば、セキュリティへの配慮が必要だ。MDM(モバイルデバイス管理)やEMM(エンタープライズモビリティー管理)といったツールとの連携など、法人ならではの仕組みの活用も必要になるだろう。
また故障や破損などのトラブルを避ける意味でも、堅牢性は重視したい。通常のスマホと外観的には変わらないが、ワンランク上の堅牢性を実現しているものもある。たとえば、米国国防総省が規定する米軍採用規格(いわゆるMILSPEC)に準拠した落下や振動、60度での高温動作、-20度での低温動作など、過酷な条件での動作をクリアした機種がある。また、長時間の水没でも動作するものもある。どのような耐久試験をクリアしているかは、各メーカーで公開しているはずなので、確認したい。工場や工事現場なら、多少ごつくても耐久性があり、手袋をはめた状態でも操作できるものがいい。営業で外回りが多いなら、通常のスマホスタイルで堅牢性の高いものが適している。導入する現場に合わせて製品を選ぶといいだろう。
何より大事なのは継続性、IT資産として管理が求められる
重要だが見落とされがちなのが「継続性」だ。一定以上の規模の企業導入では、欠くことのできない要素となる。故障しても代替機が手に入る。保証期間が長く、しっかりとサポートしてくれる。しかしそんなかゆいところに手が届く端末は意外に少ないのも事実だ。数年にわたって入手できる機種であるかも重要なところだ。
特に低価格なスマートフォンは製品寿命が短く、数ヵ月で新機種にどんどん入れ替わってしまうことすらある。ここが通話だけのフィーチャーフォンとは異なる点だろう。機種が変われば機能も変わり、サポートする手間も増える。
またOSについてもスマートフォンはバージョンアップの頻度が高い。個人であれば、新しいOSが登場するたびに、こぞって新機能を試していくのもいい。しかしこと法人で使うスマートフォンに限っては、最新が最良ではない。刈れた技術でも安心して継続的に利用できる環境が整っていることが、法人向けのスマートフォンに求められるポイントだろう。
企業利用ではむやみにパソコンのOSをバージョンアップさせない。これはスマートフォンでも同じことだ。特に業務用のアプリケーションやシステムを利用するとなると、まずは検証が必要で、動作保証がない限り新バージョンに移行させることはできない。OSのバージョンアップやセキュリティーアップデートなどをどのタイミングで実施するか、その計画に沿った選択肢が用意されているかは大切で、確認が必要な部分だ。
Slackやチャットツールなどに端を発するビジネスの現場における新たなコミュニケーションツールが、働き方を変革する可能性も出てきている。スマートフォンが果たす役割は増す一方だ。その導入は必要不可欠とも言える。一方でこうしたスマートフォンはもはや電話機ではなくIT機器である点も理解した。
通話やメールを主体とした、単純なコミュニケーションのツールとして、「個人に管理をゆだねる」のではなく、適切な管理が必要となる。
こうした法人導入ならではのポイントを理解せずに、安易な機種選定をしてしまうと、思わぬ落とし穴にはまってしまうこともあるだろう。日々の業務に忙殺されている情シス担当者がまず考えるべきなのは、そんな落とし穴を避ける事前の準備だろう。それが結果として長期にわたって負担の少ない、スマートフォン運用につながる。
文/ASCII編集部
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